今回は、胃バリウム検査のトラブルについて解説します。 |
(1)胃バリウムと便秘症
皆様もご存じのように、胃バリウム検査は、健康診査の際、胃の病気を検出するうえで、胃カメラと同じくらい重要な検査方法です。胃カメラは胃の内側から局所局所を直に詳しく診ることにできるやや主観的な検査であるのに対し、他方、胃バリウム検査は胃の外側から胃全体を客観的に評価できる方法です。共に純日本産の技術でありまして、既に60年前後の歴史を持つ胃バリウム検査は安全に実施できる安定した検査手法です。
ただし、安全な検査とは言えども、いくつか注意を要する項目があります。その一つがバリウム後の便秘症です。
一部の方で、バリウム摂取後に、軽くはない便秘症を来す方がいらっしゃいます。程度としてはすぐ収まるごく軽度のものから、医療的処置を要するものまで種々様々ですが、稀ながらも、中には検査後に苦しい思いを数日間したといわれる方がいらっしゃいます。
特に、最近、標準のバリウム濃度が高濃度のものへ移行した時期ごろから、その訴えが少し増えたような気が致します。ただ、便秘とはいっても、通常、下剤を必ず飲む 検査後水を沢山飲む(コップで水を2~3杯すぐ飲む)、食事を早めに摂取する等の、医師や技師からの基本的な指示を守れさえすれば、ほとんどの便秘、ひどい便秘は回避できることが多いのですが(下剤摂取せずに、という方も残念ながらいらっしゃいます)、指示をきちんと守っていても、どうしても便が出ずらくなってしまったという方も年間に数件あります。そのような場合は、申し訳ないのですが、消化器科病院を受診の上、浣腸等の処置(排便誘発)を受けて頂くか、摘便と云いまして直腸内で停滞している便を掻き出す処置を受けていただく事をお勧めいたします。
実際上、常日頃から下剤を定期内服していない方は、手渡される下剤を飲むだけでけっこう早めにバリウムが全量排出されることが多いのですが、胃バリウム検査直前まで、数日間全く排便が無い方の場合は、検査を中止にしたほうが良いこともあります。
受診者の方の不安によっては、医師による腹部診察と問診の結果に応じて、検査自体を中止させて頂くこともありますのでご了承ください。
(2)胃バリウムと誤嚥
一般的に、飲み物や食べ物でも、急いで摂取すると、間違って気管に入り込んでひどくせき込むことがあります。比較的、高齢者の場合に多いのですが、中には若い方でもむせることがあります。
中には体調によっては、ご自分の唾液でさえもむせることはままあるのですが、そうしたむせる症状が胃バリウム検査の最中に起きることがあります。それがバリウム誤嚥です。
概ね、気管の途中で落ちかけたバリウムの誤嚥ならば、咳き込むことや気管繊毛上皮の異物排出機能できれいにできるのですが、誤嚥された量が多いと肺の末しょうにまでバリウムがおりてしまうこともあります。肺まで落ちたとしても、無菌状態のバリウムですので、炎症を起こすことはほぼ無いので、肺炎等の心配はないのですが、最近増えています非抗酸菌性結核症や肺線維症、肺気腫の方はなるべくは、異物を肺、肺胞に入れないに越したことはありません。脳梗塞後遺症の方は嚥下が円滑にできないため、誤嚥しやすい傾向があります。
検査中の誤嚥を回避するためには、注意が必要です。まず、誤嚥を回避するには慌てず、ゆっくりとバリウムを飲むことが大事です。
当施設で行っている工夫の一つですが、以前の記録上、バリウム検査にて誤嚥ありと過去の記載がある場合、誤嚥をしにくくするように、コップの辺縁に切り込みを入れ、飲みやすく形状を変えたものを使い、かつ、バリウムの量自体も少なくするよう指示を出しておくことで対処しています。尚、誤嚥した後、次回以降も繰り返す可能性大と思われる場合、次から胃カメラに検査方法の切り替えを指導させて頂くこともありますので、この点もご理解ください。 (・・・次回に続く)